管理会社による管理費滞納者への督促と非弁行為

マンション管理
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どうも弁護士のスヌスムムリクです。

先日、輪番制のため、マンションの理事になった知人から、以下のような相談がありました。

(相談内容)

管理組合が、管理会社に管理費滞納者への滞納管理費の督促をさせることは、非弁行為に該当するか?

私自身、イソ弁時代は、マンション管理組合に関連する法律相談を受けたことがなかったので、連休中に調べてみました。

(結論)

非弁行為に該当する可能性がある。

なんとも歯切れの悪い回答ですね。

ただ、それには理由があるんです。

まずは、非弁行為について規定している弁護士法72条を見てみましょう。

(弁護士法72条)弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

本条から要件を抽出すると、以下のとおりになります。

(要件)

①「弁護士又は弁護士法人でない者」の行為であること

②「報酬を得る目的」であること

③「法律事件」に関する行為であること

④行為の性質が「法律事務」であること

⑤「法律に別段の定め」がないこと

それでは検討してみます。

1.要件①について

管理会社は、「弁護士又は弁護士法人でない者」に該当するものといえます。

2.要件②について

管理会社の業務には、管理費滞納者への督促業務も含まれており、当該業務を行うことで管理組合から管理委託料を受け取っているので、督促業務は「報酬を得る目的」で行なっているものといえます。

3.要件③について

裁判例を見ますと、「法律事件」とは、「法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件をいう」とありました。

なお、平成22年最高裁決定では、法的紛議が生ずることがほぼ不可避である場合には、「その他一般の法律事件」にあたるとされており、争いや疑義が顕在化していることは必須ではないようです。

そうすると、管理費滞納者への対応が「法律事件」に関するものなのかどうかの線引きが難しくなってきます。

少なくとも管理費滞納者に対し、管理費の滞納がある旨を連絡すること自体は許容されるはずです(滞納連絡行為)。

その後の督促業務が「法律事件」に関するものかどうかは、管理費滞納者の態度・反応によって変わってくるかと思います。

例えば、管理費を支払い忘れただけで、直ぐに支払う旨を表明している者に対する督促行為は許容されるのではないかと思います。

他方で、滞納管理費の金額について異議を唱えている者や、滞納管理費を支払わない旨を明言している者に対する督促行為をする場合には、争いや疑義が顕在化している(少なくとも、法的紛議が生ずることがほぼ不可避)と評価されるのではないかと考えます。

では、無視している管理費滞納者への督促行為はどうでしょうか?

この場合、管理費滞納者の意向が分かりませんので、数回、滞納連絡行為、督促行為をするのは許容されるものと考えられます。

しかし、複数回にわたって滞納連絡行為・督促行為をしたにもかかわらず、管理費滞納者が無視を貫いているような場合、それは、支払わない旨を明言しているものと同視できないでしょうか?

そうなると、この場合には、争いや疑義が顕在化している(少なくとも、法的紛議が生ずることがほぼ不可避)と評価されるのではないかと考えます。

なお、マンション標準管理委託契約書(http://www.kanrikyo.or.jp/format/pdf/kiyaku/keiyaku20180309_2.pdf)をみても、●ヶ月督促を行なっても支払いがない場合には、督促業務を終了する旨が規定されています。

4.要件④について

裁判例を見ますと、「法律事務」とは、「(それらの法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件について)法律上の効果を発生、変更する事項の処理をいう」とありました。

督促行為の結果、管理費滞納者が滞納管理費を支払った場合、管理組合にとっては、未収金の減少に繋がりますので、督促行為自体は「法律事務」といえそうです。

5.要件⑤について

弁護士法はもちろん、マンション管理適正化法などにも、管理会社が管理費滞納者への督促対応を行えることの根拠となり得る規定はなさそうです。

そのため、「法律に別段の定め」がない場合といえます。

6.まとめ

私が、管理会社による管理費滞納者への督促業務について、非弁行為に該当する可能性があるという歯切れの悪い回答をした理由がお分かりいただけたでしょうか?

場合によっては、管理会社による管理滞納者への督促行為が非弁行為と評価されるリスクがあります。

しかし、管理会社による督促業務には、様々なものがありますので、非弁行為かどうかを明確な基準でもって判断するのは難しいわけです。

もっとも、一応の基準としては、①督促行為は、管理費滞納者の態度・反応によって変わってくる、②滞納管理費の支払いを拒否・長期間無視している者に対する督促行為を管理会社にさせない、ということでしょう。

非弁行為について詳しくない理事の方だと、”管理費滞納者への督促業務は管理会社の仕事だろ!”と何でもかんでも管理会社にさせようとしそうです…

さて、先日、知人に対し、上記回答をしたところ、また何かあったら相談するよと言われました…今度は食事くらい奢って欲しいものですね。

ではでは。



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