どうもスヌスムムリクです。
政府は、昨日18日の閣議で、天皇陛下が即位を宣言する22日の「即位礼正殿の儀」に合わせ、22日付で恩赦を実施することにしたようです。
今回の恩赦は、喪失・停止された資格を回復させる「復権」のみで、比較的軽微は交通違反などによって罰金刑を受け、納付から3年以上が経過した方を対象としており、約55万人にのぼるようです。
ふ過去には、元号が平成に代わった際に、1989年2月の昭和天皇の「大喪の礼」や1990年11月の上皇様の「即位礼正殿の儀」で実施され、前者の際には、有罪判決の効力を失わせる大赦を含む約1017万人が、後者の際には、罰金刑(納付から3年未満も含む)の約250万人が対象になったこともあるようです。
皇室の慶弔時に伴う恩赦は1993年の天皇陛下と皇后様のご結婚以来、26年ぶりとのことです。
さて、 これまでさらっと「恩赦」と言ってきましたが、皆さんあまり馴染みがないと思いますので、制度解説をしたいと思います。
総論
恩赦の定義について
「恩赦」とは、行政権によって、国の刑罰権を消滅させ、裁判の内容を変 更し、又は裁判の効力を変更若しくは消滅させることをいいます。
恩赦は、憲法に規定されている制度で、天皇の国事行為のひとつです。
憲法第7条
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
憲法第73条
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
なお、恩赦の制度趣旨として最も重要なのは、罪を犯した人たちの改善更生の状況などを考慮し、刑事政策的に裁判の内容や効力を変更することにあるとされています。
恩赦の種類について
恩赦に関しては、恩赦法という法律(同施行規則)があり、その効果に応じて5つの種類があります。
具体的には、大赦、特赦、減刑、刑の免除、復権になります。
なお、勘違いしてはいけないのですが、恩赦の効力は遡及せず、将来に向かってのみ効力を発生させるため、有罪の言渡しに基づく既成の効果が変更されることはありません。
恩赦法第11条
有罪の言渡に基く既成の効果は、大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除又は復権によつて変更されることはない。
恩赦の実施方法について
恩赦の実施方法は、政令恩赦(一般恩赦)と個別恩赦に区別できます。
まず、政令恩赦は、政令によって一律に行われるもので、大赦、減刑及び復権があります。
恩赦法第2条
大赦は、政令で罪の種類を定めてこれを行う。
恩赦法第6条
減刑は、刑の言渡を受けた者に対して政令で罪若しくは刑の種類を定めてこれを行い、又は刑の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。
恩赦法第9条
復権は、有罪の言渡を受けたため法令の定めるところにより資格を喪失し、又は停止された者に対して政令で要件を定めてこれを行い、又は特定の者に対してこれを行う。但し、刑の執行を終らない者又は執行の免除を得ない者に対しては、これを行わない。
つぎに、個別恩赦は、特定の者に対して個別的に中央更生保護審査会の審査を経て行われるもので、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権があります。
恩赦法第12条
特赦、特定の者に対する減刑、刑の執行の免除及び特定の者に対する復権は、中央更生保護審査会の申出があつた者に対してこれを行うものとする。
なお、個別恩赦は、さらに、内閣が閣議決定で定める基準により一定の期間を限って行われる特別 基準恩赦と常時行われている常時恩赦に区別されます。
各論
大赦について
大赦は、有罪の言渡しを受けた者については、その言渡しの効力を失わせ、有罪の言渡しを 受けていない者については、公訴権を消滅させる効果があります。
恩赦法第2条
大赦は、政令で罪の種類を定めてこれを行う。
恩赦法第3条
大赦は、前条の政令に特別の定のある場合を除いては、大赦のあつた罪について、左の効力を有する。
一 有罪の言渡を受けた者については、その言渡は、効力を失う。
二 まだ有罪の言渡を受けない者については、公訴権は、消滅する。
特赦について
特赦は、有罪の言渡しを受けた特定の者に対して、その言渡しの効力を失わせる効果があります。
恩赦法第4条
特赦は、有罪の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。
恩赦法第5条
特赦は、有罪の言渡の効力を失わせる。
減刑について
減刑は、刑の言渡しを受けた者に対して政令で罪若しくは刑の種類を定めて、又は刑の言渡しを受けた特定の者に対し、刑を減軽し、又は刑の執行を減軽する効果があります。
恩赦法第6条
減刑は、刑の言渡を受けた者に対して政令で罪若しくは刑の種類を定めてこれを行い、又は刑の言渡を受けた特定の者に対してこれを行う。
恩赦法第7条
1 政令による減刑は、その政令に特別の定めのある場合を除いては、刑を減軽する。
2 特定の者に対する減刑は、刑を減軽し、又は刑の執行を減軽する。
3 刑の全部の執行猶予の言渡しを受けてまだ猶予の期間を経過しない者に対しては、前項の規定にかかわらず、刑を減軽する減刑のみを行うものとし、また、これとともに猶予の期間を短縮することができる。
4 刑の一部の執行猶予の言渡しを受けてまだ猶予の期間を経過しない者に対しては、第二項の規定にかかわらず、刑を減軽する減刑又はその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間の執行を減軽する減刑のみを行うものとし、また、刑を減軽するとともに猶予の期間を短縮することができる。
刑の免除について
刑の執行の免除は、 刑の言渡しを受けた特定の者に対し、 判決で確定した刑の執行のみを免除する効果があります。
恩赦法第8条
刑の執行の免除は、刑の言渡しを受けた特定の者に対してこれを行う。ただし、刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者又は刑の一部の執行猶予の言渡しを受けてその刑のうち執行が猶予されなかつた部分の期間の執行を終わつた者であつて、まだ猶予の期間を経過しないものに対しては、その刑の執行の免除は、これを行わない。
復権について
復権は、有罪の言渡しを受けたため法令の定めるところにより資格を喪失し、又は停止され た者に対して、資格を回復する効果があります。
例えば、医師や看護師、弁護士や司法書士などの国家資格の一部では罰金刑以上を受けると資格が制限される場合がありますが、「復権」によって、その資格の制限が解消されます。
また、医師国家試験等の受験資格の制限も解消されます。
恩赦法第9条
復権は、有罪の言渡を受けたため法令の定めるところにより資格を喪失し、又は停止された者に対して政令で要件を定めてこれを行い、又は特定の者に対してこれを行う。但し、刑の執行を終らない者又は執行の免除を得ない者に対しては、これを行わない。
恩赦法第10条
1 復権は、資格を回復する。
2 復権は、特定の資格についてこれを行うことができる。
最後に
恩赦は、罪を犯した者の更生の意欲を高め、社会復帰を促進するという刑事政策的な制度だと思いますが、他方で、裁判所が法律に基づいて判断して確定した刑罰の効果を、訴訟手続によらずに一部を消滅させ、特定の犯罪につき公訴権を消滅させるものでもあります。
つまり、行政の判断によって、立法及び司法判断を一部覆す行為といえますので、三権分立の観点からすると、恩赦は、大々的に実施するものではなく、控えめな運用をしなくてはならないのでしょうね。
ではでは。
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