どうもスヌスムムリクです。
もしも私がマンション管理組合の理事長さんから質問を受けたら?シリーズです。

今回はどういったご相談でしょうか?

当マンションでは、これまでペットの飼育に関しては特に管理規約上の制限を設けておらず、個々の居住者の判断に委ねておりました。
実際、当マンション内には犬や猫等のペットを飼育している居住者がいるのですが、最近、理事会にペットに関する苦情・トラブル(臭気、鳴き声、足音等)の報告が寄せられることが増えてきました。
そこで、次回の総会において、ペットの飼育を制限する規約又は使用細則を新設したいと考えているのですが、注意しておく事項がありますか。

例えば、飼育できるペットの鳴き声や糞尿の処理など飼育時のルールを定めるなどの部分的な制約を課す規定又は使用細則の新設であれば、許容されやすいです。
他方で、これまでペットの飼育を容認していた経緯を踏まえますと、ペットの飼育を全面的に禁止する規約又は使用細則を新設することは、既にペットの飼育をされている区分所有者の承諾を得なければ難しいでしょう。以下、一般論的な解説をいたします。
管理規約又は使用細則によるペット飼育の制限について
管理規約による制限の可否について
区分所有法上、どのような行為が「区分所有者の共同の利益に反する行為」であり、こうした行為に対して、どのような制限を課すのかという点に関しては、原則として、管理組合(区分所有者間)の自由な判断に委ねられております。
そのため、原則として、管理規約によって、ペットの飼育制限等の専有部分の使用方法に関する制限をすることも可能です。
区分所有法第6条1項
区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
区分所有法第30条1項
建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
この点に関し、東京高裁平成6年8月4日判決も、次のとおり判示しています。
区分所有法6条1項は、区分所有者が区分所有の性質上当然に受ける内在的義務を明確 にした規定であり、その1棟の建物を良好な状態に維持するにつき区分所有者全員の有す る共同の利益に反する行為、すなわち、建物の正常な管理や使用に障害となるような行為 を禁止するものである。
上の共同の利益に反する行為の具体的内容、範囲については、区分所有法はこれを明示しておらず、区分所有者は管理規約においてこれを定めることができる(同法 30 条1項)ものとされている。
そして、マンション内における動物の飼育は、 一般に他の区分所有者に有形無形の影響を及ぼすおそれのある行為であり、これを一律に共同の利益に反する行為として管理規約で禁止することは区分所有法の許容するところであると解され、具体的な被害の発生する場合に限定しないで動物を飼育する行為を一律に禁止する管理規約が当然に無効であるとはいえない。
http://k-mansionlife.com/hanrei-pet1.pdf
使用細則による制限の可否について
もっとも、管理規約にペット飼育を制限する規定を新設しようとすると、総会の特別決議が必要になってしまいます(区分所有法第31条1項)。
区分所有法第30条1項
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
他方で、使用細則の設定・変更は、総会の普通決議で対応できますので、管理規約ではなく、使用細則にペット飼育を制限する規定を新設できないかという点も検討してみます。
標準管理規約第18条
対象物件の使用については、別に使用細則を定めるものとする。
https://www.mlit.go.jp/common/001202416.pdf
この点、国土交通省の標準管理規約のコメント(11・12頁)には、次のような指摘がありました。
① 使用細則で定めることが考えられる事項としては、動物の飼育やピアノ等の演奏に関する事項等専有部分の使用方法に関する規制や、駐車場、倉庫等の使用方法、使用料等敷地、共用部分の使用方法や対価等に関する事項等が挙げられ、このうち専有部分の使用に関するものは、その基本的な事項は規約で定めるべき事項である。 なお、使用細則を定める方法としては、これらの事項を一つの使用細則として定める方法と事項ごとに個別の細則として定める方法とがある。
② 犬、猫等のペットの飼育に関しては、それを認める、認めない等の規定は規約で定めるべき事項である。基本的な事項を規約で定め、手続等の細部の規定を使用細則等に委ねることは可能である。 なお、飼育を認める場合には、動物等の種類及び数等の限定、管理組合への届出又は登録等による飼育動物の把握、専有部分における飼育方法並びに共用部分の利用方法及びふん尿の処理等の飼育者の守るべき事項、飼育に起因する被害等に対する責任、違反者に対する措置等の規定を定める必要がある。
https://www.mlit.go.jp/common/001202416.pdf
国土交通省としては、ペット飼育の可否に関する基本事項は規約で定め、細部は使用細則に委ねるという建付けを想定しているようです。
管理規約又は使用細則にペット飼育の制限規定を新設することについて
問題の所在
さて、上記のとおり、管理規約にペット飼育の制限規定を設けることができるということは分かりました。
では、今回のケースのように、もともと、ペットの飼育は個々の居住者の判断に委ねられ、実際に犬や猫等を飼育している方がいる状況において、 管理規約にペット飼育の制限規定を設ける際には、注意すべき事項があるのでしょうか?
この点、区分所有法では、規約の設定が一部の区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼす場合には、その承諾を得なければならないとされております。
区分所有法第30条1項
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
仮に「特別の影響」がある場合において、関係する区分所有者の承諾が得られないような場合には、新設した条項は無効になってしまいます。
そこで、管理規約にペット飼育の制限規定を設けることが既に犬や猫等を飼育している区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすのかどうかを検討する必要があります。
「特別の影響」とは?
この点、最高裁平成10年10月30日判決では、次のように判示しており、その後の裁判例でもどうようの基準が踏襲されています。
建物の区分所有等に関する法律三一条一項後段にいう「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が右区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52595
要するに、比較衡量によって、対象区分所有者の受忍限度を超える場合(必要性・合理性<不利益)には、「特別の影響」ありと評価されることになります。
今回のケースについて
今回のケースについてみますと、 最近、理事会にペットに関する苦情やトラブルの報告が寄せられることが増えてきたという事情があるようです。こうした事情を踏まえますと、ペット飼育の制限規定を設ける必要性・合理性はありそうです。
しかし、近年では、ペット飼育を許可しているマンションが比較的多く、ペットが飼育できることを前提に今回のマンションを購入された方やペット飼育を始めた方が少なからずいるはずです。それにもかかわらず、ペット飼育を全面的に禁止した場合には、こうした方々への不意打ちになりますし、飼育しているペットはどうすれば良いのか困ってしまいます。こうした不利益は決して軽微なものとはいえません。
そうすると、ペット飼育を全面的に禁止する規約を新設することは、既にペットを飼育している区分所有者にとって「特別の影響」と評価され、その区分所有者の承諾を得なければならないことになってしまいます。
他方で、ペットの臭気、鳴き声、足音等の問題を防止するため、例えば、糞尿の処理方法についての規定やフローリングにマットレスなどを敷くなどの防音対策についての規定、現在飼育しているペット一代に限って飼育を認める規定(東京地裁平成6年3月31日判決参照)などの部分的制限規定であれば、既にペットを飼育している区分所有者の「特別の影響」とまでは評価されず、その区分所有者の承諾なくして、規約の新設をすることができるものと評価されます。
その他
余談ですが、居住者がペット飼育の制限規定に違反して、例えば、糞尿による悪臭、鳴き声等の問題を発生させているような事案の場合には、理事長としては、その対象者に是正勧告等を行うことになります。
標準管理規約第67条1項
https://www.mlit.go.jp/common/001202416.pdf
区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
是正勧告にもかかわらず、何ら是正がなされないような事案の場合には、更に区分所有法に定められた措置(差止め、使用禁止、競売)を講じることになります。
区分所有法第57条
1 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第一項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前三項の規定は、占有者が第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。
区分所有法第58条
1 前条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第一項に規定する請求によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数でする。
3 第一項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第三項の規定は、第一項の訴えの提起に準用する。
区分所有法第59条1 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3 第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。
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