どうも弁護士のスヌスムムリクです。
もしも私がマンション管理組合の理事長さんから質問を受けたら?シリーズです。

今回はどのようなご相談でしょうか?

今回、当マンションでは、耐震改修工事として、構造躯体に耐震部材を設置する工事を予定しています。先日、理事会が開催され、今度の総会に上程する方針になったのですが、ある理事から、今回の工事にかかる議題は、総会の普通決議事項なのか、特別決議事項なのかという質問が寄せられました。どのように考えれば良いでしょうか。
なお、当マンションの管理規約は、国土交通省の標準管理規約(単棟型)に準じた内容になっています。

今回の工事は、基本的な構造部分への加工の程度が小さいので、狭義の管理行為に該当し、普通決議事項で対応可能だと考えます。
但し、建築士等の専門家にも相談し、構造部分への影響が大きいような場合には、念のため、特別決議事項として対応した方が良いかもしれません。
以下、標準管理規約(単棟型)を前提に、一般論的な解説をいたします。
共用部分の管理を行う際に必要な手続について
共用部分の管理行為の種類
区分所有法上、共用部分の管理行為には、保存行為、狭義の管理行為、変更行為という3つの種類があり、それぞれ必要な手続が異なります。
なお、狭義の管理行為又は変更行為を実施する場合において、「専有部分の使用に特別の影響を及ぼすとき」は、「その専有部分の所有者」の「承諾」が必要になるので注意が必要です。
区分所有法
17条1項 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。
17条2項 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。
18条1項 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
18条3項 前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/viewContents?lawId=337AC0000000069_20150801_000000000000000
保存行為
保存行為とは、共用部分の滅失・毀損を防止して現状維持を図る行為のうち、緊急性があるものや比較的軽度の維持行為を指します。
保存行為については、各区分所有者が単独で実施することができます(区分所有法18条1項但書)。
狭義の管理行為
狭義の管理行為とは、共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴わない改良行為を指します。
狭義の管理行為については、総会の普通決議事項となります(区分所有法18条1項本文)。
変更行為
変更行為とは、共用部分の形状又は効用を著しく変える改良行為を指します。
変更行為は、総会の特別決議事項となります(区分所有法17条1項)。
保存行為・狭義の管理行為・変更行為の峻別について
保存行為と狭義の管理行為の峻別について
区分所有法上、保存行為と狭義の管理行為を峻別する基準は、特にありません。
一応の目安は次のとおりです。
保存行為:月々の管理費で賄える範囲内の修繕等
狭義の管理行為:修繕積立金を取り崩す必要がある修繕や分担金を要するような修繕等
狭義の管理行為と変更行為の峻別について
区分所有法上、狭義の管理行為と変更行為を峻別する基準も、特にありません。
両者の定義をもう一度見てみましょう。
狭義の管理行為:共用部分の形状又は効用の著しい変更を伴わない改良行為
変更行為:共用部分の形状又は効用を著しく変える改良行為
定義からも分かりますが、両者の峻別は、形状(外観や構造)や効用(機能や用途)の変更が「著しい」か否かで判断することになります。
そして、「著しい」か否かは、変更部分の範囲や変更態様、程度等を総合考慮して判断することになります。
いやいや「総合考慮」なんて言われたって判断できないわ…ということで、困った時は標準管理規約(単棟型)のコメントを見てみましょう。意外とというとアレですが、かなり参考になる情報が記載されていることがあります。
標準管理規約(単棟型)コメント第47条⑤には、次のような記載がありました。
かなり参考になりますので、長文になりますが、引用します。
各工事に必要な総会の決議に関しては、例えば次のように考えられる。ただし、基本的には各工事の具体的内容に基づく個別の判断によることとなる。
ア)バリアフリー化の工事に関し、建物の基本的構造部分を取り壊す等の加工を伴わずに階段にスロープを併設し、手すりを追加する工事は普通決議により、階段室部分を改造したり、建物の外壁に新たに外付けしたりして、エレベーターを新たに設置する工事は特別多数決議により実施可能と考えられる。
イ)耐震改修工事に関し、柱やはりに炭素繊維シートや鉄板を巻き付けて補修する工事や、構造躯体に壁や筋かいなどの耐震部材を設置する工事で基本的構造部分への加工が小さいものは普通決議により実施可能と考えられる。
ウ)防犯化工事に関し、オートロック設備を設置する際、配線を、空き管路内に通したり、建物の外周に敷設したりするなど共用部分の加工の程度が小さい場合の工事や、防犯カメラ、防犯灯の設置工事は普通決議により、実施可能と考えられる。
エ)IT化工事に関し、光ファイバー・ケーブルの敷設工事を実施する場合、その工事が既存のパイプスペースを利用するなど共用部分の形状に変更を加えることなく実施できる場合や、新たに光ファイバー・ケーブルを通すために、外壁、耐力壁等に工事を加え、その形状を変更するような場合でも、建物の躯体部分に相当程度の加工を要するものではなく、 外観を見苦しくない状態に復元するのであれば、普通決議により実施可能と考えられる。
オ)計画修繕工事に関し、鉄部塗装工事、外壁補修工事、屋上等防水工事、 給水管更生・更新工事、照明設備、共聴設備、消防用設備、エレベータ ー設備の更新工事は普通決議で実施可能と考えられる。
カ)その他、集会室、駐車場、駐輪場の増改築工事などで、大規模なものや著しい加工を伴うものは特別多数決議により、窓枠、窓ガラス、玄関 扉等の一斉交換工事、既に不要となったダストボックスや高置水槽等の撤去工事は普通決議により、実施可能と考えられる。
https://www.mlit.go.jp/common/000161665.pdf
上記コメントの黄色マーカーを付した部分をご覧ください。今回、理事長から相談をされた工事が挙がっており、普通決議事項との指摘をされています。
ではでは。
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