どうも弁護士のスヌスムムリクです。
最近、隙間時間を見つけて、「わかりやすいマンション判例の解説 紛争解決の実務指針」(全国マンション問題研究会編)という書籍を読んでいます( 書評は、読み切った後にするつもりです。 )。
上記書籍を読んでいて、参考になる判例(最高裁平成10年10月30日判時1663号56頁「本判例」)に当たりました。
本判例では、住戸とは別に分譲した駐車場の有償化が、「区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」(区分所有法31条1項後段)に該当し、当該分譲駐車場を購入した区分所有者の個別の承諾が必要になるのではないかという点が争点になりました。
区分所有法31条1項
規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/viewContents?lawId=337AC0000000069_20150801_000000000000000
本判決は、「区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」(区分所有法31条1項後段)の意義・類推適用の場面を示した重要な判決になります。
以下、それぞれ紹介します。
なお、判決全文はこちらをご参照ください。
1 意義
「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/595/052595_hanrei.pdf
①規約の設定、変更等の必要性・合理性と②区分所有者の不利益を比較衡量し、 その不利益が「区分所有者の受忍すべき限度を超える」と評価できる場合には、「特別の影響を及ぼすべきとき」に該当することになり、当該区分所有者の承諾を得ることが必要になるわけです。
続けて、本判決では、次のとおり、事案に即した具体的な基準を示していますので、載せておきます。
これを使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権に不利益を及ぼすものであるが、 増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。
また、増額された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、規約の設定、変更等は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくとも有効なものであると解するのが相当である。
増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情、例えば、(1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、(2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、(3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、(4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、(5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきものである。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/595/052595_hanrei.pdf
※どうでも良いのですが、本判決の言い回しは、「というべきである。」「と解するのが相当である。」「すべきものである。」となっていますね…(本当にどうでも良い。)
2 類推適用の場面
区分所有法31条1項後段では、「規約の設定、変更又は廃止」が、「区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に、当該区分所有者の「承諾」を得るものとされています。
他方で、本判決の事案は、規約の定めに基づいて、 分譲駐車場の有償化を図った場合についてですので、文言上、区分所有法31条1項後段が直接適用される場面ではないように思えます。
この点につき、本判決は、以下のような判示をしています。
本件のように、直接に規約の設定、変更等によることなく、 規約の定めに基づき、集会決議により管理費等に関する細則の制定をもって使用料が増額された場合においては、法三一条一項後段の規定を類推適用して区分所有者間の利害の調整を図るのが相当である。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/595/052595_hanrei.pdf
こうした判断は、極めて妥当だと思います。
3 さいごに
本判決の判断は、その後も判例・裁判例で良く引用されているようです。
また、おそらくマンション実務でも、例えば、ある議案が通ると不利益を受ける区分所有者からのクレーム等で良く目にする条文なのではないかと思います。最低限の知識は持っていないと、なんでもかんでも当該区分所有者の承諾を得なければ…といった思考になってしまうので、要注意だと思います。
ではでは。
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